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【055】小説「灰と王国」2巻/感想:乖離と断絶、あるいは時代の潮流

ディアティウス大陸の北に位置する港町ナナイス。
本国から程遠く、寒さ厳しいながらも穏やかに過ぎていた日常は、度重なる闇の獣の襲撃によって終わりを告げた。
粉屋の息子フィニアスと、その家族、知人たちは、苦難の旅を余儀なくされてしまう。
しかし、必然か偶然か、一人の少女との出逢いがフィニアスたちの運命を変えていく。
幻想と郷愁、闇と希望の交錯するハイ・ファンタジー小説、第二巻。

主人公最強系小説。

…と言うと、十全に語弊があるけれど、広義で言うと、あながち間違いでも無いという。
とは言っても、主人公フィニアスが何もかもを上手くやれるわけでも、状況を一変させる程でも無い。
あくまでも、ただの人間として足掻く青年の物語。

…と思いきや、状況はあちらこちら飛ぶ事に。

皇帝や炎竜侯、大領主の孫息子など、フィニアスの預かり知らぬ話があちこちに差し挟まれるようになってくる。
流れからして、いずれはフィニアスに関わってくる人々なのだろうけれど、これはいけない。

1巻は、フィニアスの話でした。
フィニアスの視座を主として語られ、そうでない時も、あくまでもフィニアスの関係者や、歩いた道の後の話だけしか無く、徹頭徹尾フィニアスの物語。
それが2巻では、そういう視座を無視して、一気に話が拡がってしまった。
これが例えば、炎竜侯の話に飛ぶとしても、その前段階でフィニアスが炎竜侯の話を見聞きするなりして、さて炎竜侯とは如何なる人か、なぞと考える描写があり、そこから炎竜侯の話をすれば、また違ったであろうに、そうではない。

唐突に炎竜侯だの皇帝だのがフィニアスと関わりない流れで出てきても、作劇の都合としか思えません。
勿論、ただフィニアスの物語では無く、王国そのものを描くのなら、その限りでは無いのだけれど、それをやるには1巻がフィニアスの物語でありすぎました。
1巻を読み、フィニアスの視座を得ている身としては、皇帝たちの話には違和感が付いて回ってしまうという。

その分、フィニアス周りの話に戻ると、レーナやネリスたちとのやり取りに思わず表情が綻びやすくなりますけれどね。

そうは言っても、まだ苦難の道程は半ばですし、一部の登場人物に至っては更に大変な目に。
何ですかね、フィニアスのそばから離れると不幸になる呪いでもあるんでしょうか。
別に、フィニアスのそばに居る人が不幸になれとは言いませんけれど、どうも、フィニアスの立場から見て手の届かない人や街、言ってしまえば「仕方ない」で済ませられてしまう位置で不幸が起こり過ぎなような。
そういう時代、と言ってしまえば、そうなんでしょうけれど。

さて、しかして、そんな暗い時代ながらも、一筋の光明が見えてきたか、あるいは光明そのものに成り往くのか。
そして、皇帝や小セナト、炎竜侯たちはフィニアスの物語を織り成す糸と成れるのか、以下続刊。

灰と王国2 竜と竜侯

灰と王国2 竜と竜侯

灰と王国2 竜と竜侯

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