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【050】小説「辺境の老騎士」1巻/感想:美味しい食べ物と冒険を描く、美味しい物語

この世を去る日も遠くないと悟り、長年仕えた主家を離れて旅に出る事にした騎士バルド。
目的地は無く、珍しい風景と美味い食べ物を味わい、いずれ死ぬための道行き。
しかし、時に人を助け、時に異形の戦士と邂逅しながらも、おおむねは気ままな旅だったはずのそれが、いつしか大きな流れの中へと足を踏み入れようとしているとは、当の老騎士さえ知る由は無かった…。
バトルとグルメとファンタジーとドラマが重なり合って供される、新たな冒険譚の幕開けである。

元はWeb小説で、その頃から評判になっていたそうです。
書籍化するまで存在を知らなかったんですけれど、なるほど、確かに評判になるだけありました。

世界観は、いわゆる中世風。
ハイファンタジーに分類されますけれど、派手な魔法や竜が飛び交う事はありません。
せいぜいが獣を凶暴化させたような魔獣や、幻術のたぐいのような描写が少しある程度。
老騎士バルドが漫遊し、その地その場で美味しい物を食べたり、ちょっとした面倒ごとを解決したり、美味しい物を食べたり。
物語の初めは、連作短編集いった作りです。

そして、その中で、ひとつの短編てして終わっているものもあれば、後々に繋がっていく伏線的な話もあり、いつしか大きな物語を形成していきます。
1巻では、世界を揺るがす、といった程では無いですけれど、それなりに大きな単位での騒動になっていました。
身分を隠して世直ししていく貴人譚に近いものがありますね。
実際、バルドもそれなりに名が売れているらしく、途中途中で、あの高名な、なんて反応を受ける事もあります。
逆に、高名な騎士を騙るジジィめ、なんてお約束の展開もあったり。

そんな、地に足ついたハイファンタジーとしての、地味だけれど真っ当な作りの中で、日向に影に効いている調味料となるのが食事場面なんです。
とにかく美味しい物を食べる食べる。
地方の郷土料理や、名店の名物料理、屋台の串物。
香茶や、ただの果実まで、お話ひとつにつき、料理もひとつ。
グルメ・エピック・ファンタジーの謳い文句通り、美味しそうな物をとにかく食べます。
コルルロースという鳥であったり、ウィジクという魚であったり、オリジナルの名称なので、ぼんやりとした想像しか出来ないんですけれど、美味しい物を食べる事が、どれほどに幸せなのかという事をしみじみと教えてくれるんです。

美しい風景を見て、美味しい物を食べて、いつしか死に往く。
言ってしまえば、ただ、それだけの物語。
ただ、それだけの幸福な物語。

とても美味しい物語なので、少しでも興味が出たら、是非に買って読んでみて下さい。
古き良き冒険譚が好きなら、きっと気に入るはずですから。

辺境の老騎士 1

辺境の老騎士 1