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A/N=Prose

おおむね言いたいだけ。

【053】小説「すべてがFになる」/感想:天才の悲哀は、悲哀を感じられないからこそ。

天才工学博士の真賀田四季は、孤島の研究所で10年以上もの間、隔離された生活を送っていた。
その島を訪れていた大学助教授の犀川と女子学生の萌絵は、研究所内で起こった、とある事件に巻き込まれてしまう。
猫の子一匹たりとも入り込めない密室で起こった奇妙な出来事は、果たして偶然の産物か、完璧な計算か。

2014年秋のテレビドラマ化が決定しました。
そして、自分にとって、ずっと気になっていた小説でした。
面白いという噂は聞きつつも、そこまで面白いと評判なら急いで読まなくても、面白い小説として、そこに在り続けるだろうし、まぁ、いいか、と。

が、テレビドラマ化されるなら話は別です。
小説や漫画が残念な感じで実写化される事も珍しくない昨今、せっかくの良作なら、原典で堪能したいと思い、早速に発掘して、睡眠時間を削って一気呵成に読了。

…結果、なるほど絶賛する人が居るのも頷けました。

ただ、自分はミステリィというものにほとんど造詣が無く、正しく読むための所作を知りません。
事件の根幹となる仕掛けにだけ注視すべきであり、その他の細かい部分は些事として見過ごすべきなんでしょうか。
読んでいて首を傾げる部分がちらほらとありました。

例えば、ワゴンに載ったそれに静電容量は存在するのか。
デボラが認識しているのは変では無いんでしょうか。
極端な話、ソーセージを使って静電式のタッチパネルを押したとして、反応するのかどうか。

そして、連続して事件が起こった後であるにも関わらず、登場人物たちがあまりに迂闊に動き過ぎではないでしょうか。
まるで自分たちには危害が及ばないと確信しているかのように振る舞うのを恐ろしく感じました。
通常では考えられないような事件が起こっているのにも係らず、心配だけどまぁ大丈夫だろう、程度の感覚しか無いんです。
いやいや、隣に居る人物がそうかも知れないし、近辺の物陰に潜んでいるかも知れない状況なのに、その緊張感の無さはどういう事でしょう。
得体の知れない人物が近くに居るかも知れないとは考えないんでしょうか。

「物語」には「人間」が居るべきだと考えています。
話の展開のために配置され、言動する事が透けて見える登場人物は、ただの「人形」でしかありません。
ただ、ミステリィは、そういう部分は捨て置いて、驚愕の仕掛けにだけ得心するべきなのかと。
もし、そうであるなら、自分の感じた違和は余分な感情なんでしょうけれど。

さて、しかし、それを置いたとしても、この作品が面白いミステリィなのかは自分には分かりません。
誰しも読んでいるうち、幾つかの可能性を考えていくと思います。
そして読み進めるうち、新たな事実が提示された事により、幾つかの可能性を消し、また幾つかの可能性を追加していきます。
例えば、不可能だと思われる密室での出来事なら、論理的に考えて、実は密室では無いか、密室完成の前後に絶対に何かがありますよね。
勿論、前述の通り、自分はミステリィに造詣が無いため、完全無欠な答えに辿り着く事は出来ませんけれど、幾つか考えた可能性の延長線上に答えはあるわけです。
真実へ至るきざはしの途中まで足をかけている状態なので、物語が佳境に入って仕掛けが解読されていっても驚きが小さいんです。
なので、「人間」のやり取りに比重を置いて読みたくなるわけで。
でも、そこに居るのは「人形」たち…。

うーん、自分にはミステリィを楽しく読む才能が無いんでしょうか。
いっそ、何も考えずに読めば、きざはしを昇らない分だけ落差があるので、心地良い驚きを得られるとか。

作中での犀川の思考や哲学に、なるほどと思う部分もありましたし、萌絵とのやり取りを微笑ましく思いました。
1990年代に書かれた事を鑑みれば、その時代にここまで先端を行く設定に賞賛すべきでしょうし。
何より、天才の哀れさの描写には感心しました。
彼女は、自らの手で後も先も絶ったんですよね。
いかな天才であれ、あるいは天才であるからこそ、同情に値する人物です。

とは言え、作品全体の評価としては、シリーズを読み進めたいと思える程でも無く。
傑作と評判だからと身構えていた部分が、期待を高めてしまったんでしょうか。
なるべく期待せずに読むように心掛けたつもりだったんですけれど、残念です。

後はテレビドラマだけで済ませますかね。
それとも、シリーズを読めば、もっと面白く感じるようになるんでしょうか、ううむ。



それと、話の本筋とはあまり関係の無い余談になりますけれど、もし人類が完璧なバーチャルリアリティの世界を作り上げて、その中で生きる事を決めたとして。
人類が、バーチャルリアリティの中で行き詰まり、閉塞してしまったらどうするんでしょう。
果たして、バーチャルリアリティの中で、バーチャルリアリティから逃げ込むためのバーチャルリアリティを作るか否か。

壁を取り払ったつもりが、そこは新たな壁の中だったりするのが、この美しくも残酷な世界なんでしょうかね。

すベてがFになる (講談社文庫)

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すべてがFになる THE PERFECT INSIDER (講談社文庫)

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