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【052】小説「勇者様のお師匠様」1巻/感想:騎士学校の魔法劣等生

同年代は元より、歴戦の冒険者にも一目を置かれる身体能力を持つ少年ウィン。
身体能力は及ばないものの、天賦の才を持つ少女レティシア
仲の良い二人の道を一旦は別れされる事になったのは、聖職者たちに下った、とある神託だった。
そひて数年ののち、ウィンとレティは再会する事になるのだが、その肩書きはとんでもないもので…。

まず、主人公たちが、いくらなんでも若すぎます。
10代半ばの少年少女による冒険譚は珍しくも無いけれど、この物語だと、それ以前の縁を描く必要があり、それが無理筋。
10歳そこらまでに、凄い剣戟だとか、魔獣退治とか言われても、さすがに。
まぁ、超才能だの勇者だのと言えば、そうなんでしょうけれど。

人々を守る騎士になるために邁進はするけれど、実際に人々を守った勇者には興味が無くて無関心な主人公。
しかも、かなり特異性のある勇者なわけで、容姿も名前も知らないというのは…。
そこまで騎士に一心不乱だったという事でいいですか。

ウィンに虚仮にされたと感じて暗い憎悪の炎を燃やす大貴族の子弟。
でも地味な嫌がらせをするだけで、その後の重大な局面でも大して注意を払わず、生きていても死んでいてもいいよ的な扱い。
憎悪と、ウィンの利用価値を考えれば、ぞんざいに過ぎませんか。
話の都合でちょっかいをかけてきただけにしか見えないですよ。

1時間かけて掃除する羽目になったからといって、青筋を立てて怒るウィン。
レティに対して、そんな居丈高な扱いをした事ありましたかね。
百歩譲って叱るのは当然としても、1時間も掃除していて、頭が冷えないウィンという描写もどうかと思います。

そして、緊急事態になったとはいえ、いかな才能があるとはいえ、殺人に対する心の動きが皆無だった事に著しい違和感を覚えました。
手練の暗殺者かと思うくらいに滑らかに人を殺すウィン。
ぐだぐだと考え込まれても鬱陶しいものの、あれはあまりに超然としすぎです。

そういう、演出としてのちぐはぐさと共に、文章にも首を傾げざるを得ない箇所があちこちにありました。

「一撃で決めようと細かくフェイントを織り交ぜつつ一撃を放つ。」

いや、表現したい事は分かるんですけれど、「一撃」を重複させない文章に出来ませんか。

「表情を崩した。」

これは冷静さを維持していたとある登場人物が動揺した時の表現なんですけれど、おかしいですよね。
笑顔になるって意味合いですし。
「冷静な表情が崩れた」なら、おかしくないので、日本語は難しいです。

「これが定期巡回討伐任務の幕開けだった。」

いやいや、幕開けって、そんな定期任務あたりに使う表現ですか。
物語としては、その任務で騒動があるので間違ってはいないんですけれど、その時点では何も無いわけで。
これも「これが王国を揺るがす事件へと発展する任務の幕開けだった」とかなら、まだ。

そして、「()」を使った補足説明文の多用。
使うなとは言いませんけれど、さすがに回数が。

そして、それら演出や文章力は勿論、物語としても、二人が恐ろしく強いために緊張感がありません。
今後も、何か事件があっても、ウィンが活躍して、レティが「さすが、お兄ちゃん」とか言って解決するのかと思うと…。
ライトノベルとして見れば、こんなものかな、程度の完成度はあるので、趣味が合えば十全に楽しめるとは思います。

魔王を倒した勇者の話なら、よくありますけれど、それに加えて、勇者の師匠と、魔王亡き後の人類社会という二つの要素が根幹を成す物語。
なるほど、設定は面白いし、1巻における終盤の展開は、設定を生かしていて素直に巧いと感じましたしね。

でも、自分には続刊を購入してまでもっと読みたいと思える程では無かったです。
色んな部分がこなれて、ちぐはぐさが無くなっていけば、また違ったでしょうに、光るモノがあるだけに残念でした。



それと、こういう話は、暗いんじゃなくて、辛気臭いと表現するのだと言っておきます。

勇者様のお師匠様 I

勇者様のお師匠様 I