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【051】小説「灰と王国」1巻/感想:古き良きファンタジー小説

大陸の北辺、帝国の威光も届きにくい土地では、少しずつ闇の獣の脅威が拡がっていた。
ただただ人間への憎悪を宿し、夜の闇と共に襲い来る獣に、人々は為す術もなく、ひとり、またひとりと命を落としていく。
わずかに残され、街に立て篭もる人間たちも恐怖と絶望に打ち勝てるはずもなく、物資を奪い合い、いがみ合い、やがて闇に吞まれようとしていた。
粉屋稼業の家族と共に暮らす青年フィニアスもまた、そんな中で希望を失いかけていたのだが…。

中世風異世界を舞台にしたファンタジー小説
正体不明の魔物と、人間、そして竜が織り成す古典的物語。

とは言っても古臭いという意味では無く。
世の中にはファンタジー小説は山程あって、玉石混淆。
面白い作品も確かにあるけれど、単純に冒険譚や群像劇としてしっかりしている物がほとんど。
この作品のように、暗い部分、どうしようもないような絶望などを描いている物になると、その数は、かなり減ると思います。

まぁ、幸福いっぱい夢いっぱい、群がる敵を千切っては投げる無敵主人公ばんざーい、みたいな作品の方が読後感は悪く無いですけれどね。
ただ、読んでいて爽快なだけでなく、時には棘を残すかのような作品も、良い物です。
主人公が無敵過ぎるとつまらないのと同じく、あまり毒がきつすぎると敬遠してしまいますので、その匙加減が難しいところですけれど。

この作品は正直、やり切れない展開や描写もあります。
そういう部分も含めて古典的。
人は光の中に進もうとするけれど、闇は常に傍らにあるのです、とでもいうような。
何も、悲劇的展開があれば面白くなるとは言いませんけれど、適度なそれは物語に厚みを生んでくれますね。

元はWEB小説という事で、ネットで無料で読む事も出来ますけれど、なるべくなら書籍として出版されている方を買って読んで欲しいところです。
加筆修正もあるようですし。

WEB小説の書籍化が少なからずある昨今ですけれど、これもまた玉石混淆。
俺がチートで異世界で大暴れ、なんてのは掃いて捨てるほどあるくらいで。
その中でも地味と言えば地味な作風となっている「灰と王国」ですけれど、その面白さは真っ当です。
ファンタジー小説が好き、と自認する方には是非読んでみて欲しい作品です。
大傑作だ、とまではいかないかも知れませんけれど、気に入る事と思います。

灰と王国1 北辺の闇

灰と王国1 北辺の闇

灰と王国1 北辺の闇

灰と王国1 北辺の闇